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栃木県産業技術センター食品技術部微生物応用研究室  岡本竹己さん 酒楽考番外編(下)
2008-01-09 Wed 10:33
岡本さんとおばちゃん
現役の栄養士で、県内酒造メーカーで六年間酵母の分析・培養を行ってきた小池圭子さん(左)が助手を務める


美酒支える県酵母

 元来日本酒には、米の持つ地味な香りしかなく、ワインのようなフルーティーな香りはない。香りを持つ吟醸酒を誕生させた背景には、日本醸造協会の協会系酵母7号、9号があった。
 酵母は、酒造りの主原料ではないが、酒の味や香り、質を決定づける重要な鍵を握る。明治以前は、麹と水を合わせる過程において空気中に自然に存在する酵母を取り込むなど、酒蔵に住み着いた「蔵つき酵母」に頼っていたため、株が一定せず科学的再現性が無く、醸造される酒は品質が安定しなかった。
 明治44年、日本醸造協会は、全国新酒鑑評会などで優秀と評価された酵母を採取し、純粋培養し頒布。昭和50年代に吟醸酒が消費者に受け入れられると、協会酵母のほかにも高エステル生成酵母、リンゴ酸高生産性多産酵母といった高い香りを出す酵母が多数バイオ研究所や大学等で開発された。平成に入り静岡酵母や山形酵母なども高く評価され、栃木県産業技術センター食品技術部微生物応用研究室でも昭和60年代、関東圏内でいち早く酵母研究に着手した。
 20年前、同研究室に入って3年目だった岡本竹己さん(45歳)は、県内蔵元から酵母開発の要望が強かったことから、独自性を出し全国新酒鑑評会での入賞率を上げることを目標に研究を始めた。
 「古い蔵には独自の酵母が住んでいる」と当たりをつけ、蔵の柱を削ったり酒蔵内にいくつも酵母の入っていない酒毋(できあがった麹、何も手をつけていない蒸し米、水が一緒になったもの)のフラスコを設置し蔵に住み着いている酵母菌が飛び込んでくるのを待ち、そこからわき出したものなどを試験所に持ってきては分離、選抜し、酒造りに使える酵母を選んでいく方法と、世代交代を繰り返すうちに生まれた突然変異種を採取するなどして選抜。5年の歳月を掛け最終的には20種類ほどの酵母菌に絞った。20種類の酵母菌を使用し、県内の酒蔵で実際に酒を造り、さらに振るいに掛け、現在2種類が残っている。

酵母だよ


 「単純な選抜では限界がありますので、細胞融合などで少し香りを高くするなど特徴を付けました」。現時点では、T―デルタ(平成元年に県内醪から分離、9号系、泡有り、酢酸イソアミル(エステル)の軽い甘い吟醸香、バナナ香)、T―1(T―デルタの変異種、カプロン酸エチル、生産性高い、酸生成やや多い、リンゴ香)、T―S(昭和六十三年に県内蔵元より分離後泡無し可、酸生成少ない、キレ早い、エステル系香り、純米酒向き)、T―F(T―Sの変異株、カプロン酸エチル。生産性極めて高い、後半のキレにやや不安あり、生成酒の低温管理が絶対不可欠)の四種類を培養、頒布している。
 県内蔵元は零細企業が多く、分析・培養設備が整っているのはわずか7、8社のみで、大多数の蔵元は同研究室を利用、酵母菌のブレンドなどで自らオリジナル酵母の研究を行う社もあり、岡本さんは技術指導及び支援を行っている。

〈酒楽考おわり〉




【2007年12月7日1面掲載 記事・写真/野田武志】



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